Exhibition

白川昌生「夏の光」

2019年10月 5日 - 11月10日

白川昌生
夏の光
2019年
合板、アクリル塗料
370 x 200 x 150 cm

Maki Fine Artsでは10月5日(土)より、白川昌生 個展「夏の光」を開催します。Maki Fine Artsでは約2年ぶり、2度目の個展となります。是非ご高覧下さい。

二つの「光」が交差するとき――白川昌生展のために 菅原伸也(美術批評・理論)

20年以上前に展開された「円環」シリーズに連なる作品として突如本展に現れた新作《夏の光》は、さらに遡ること30年ほど前のアンソニー・カロのモダニズム彫刻のようにもしかしたら見えるかもしれない。単色の抽象色彩彫刻という点、カロ作品にも頻繁に見られる円の形象を用いている点においてたしかに共通している。だが、白川にとって「円」は単に抽象的な幾何学的形態であるだけではない。「円環」シリーズより前、1979年に白川は「円」のコンセプト・ドローイング集をドイツで出版しており、そこでは様々な概念が「円」の形象に込められていた。

さらに、《夏の光》はカロの彫刻のように鉄を自由に鋳造して形成されているのではなく、ホームセンターで比較的簡単に入手できる木材と塗料のみで作られている。それはもちろん白川の制作環境などによって課せられた制約でもあるが、そうしたある種のレディメイド性は白川によってむしろポジティブな契機として捉え直されている。既存の物を用いたという点において《夏の光》は、MAKI FINE ARTSでも何度か展示された、廃材を利用した「コヨーテ」シリーズとの関連において理解することもできよう。したがって、現実から自律した純粋に造形的な抽象彫刻に見えたとしても、同時にそこには概念や現実とのつながりが「抽象しきれなさ」のようなものとしてつねに残存しているのである。
白川の作品全体は、しばしば造形的な作品と社会的な作品という排他的な二系統に分類されるが、これまで見てきたように《夏の光》のような作品であっても単に造形的、抽象的なだけではない。《夏の光》と、社会的な作品に分類されるだろう本展出品のもう一つの作品《弁天通り商店街の光》という二つの「光」が交わる空間に身を浸すことによって、白川の個々の作品の内部においても二つの系統が共存しているさまを見いだすこと、それこそが本展において我々観客に要請されているのではないだろうか。

白川昌生
1948 年福岡県北九州市戸畑生まれ。1981 年デュッセルドルフ国立美術大学卒業、修士称号を受ける。1983 年に帰国後、群馬を拠点に活動する。近年の主な展覧会として、「表現の生態系 世界との関係をつくりかえる」(2019年/アーツ前橋)、「百年の編み手たち – 流動する日本の近現代美術 – 」(2019 年/東京都現代美術館)、個展「制作過程」(2018 年/rin art association)、「メルド彫刻の先の先(白川昌生キュレーション)」(2018 年/Maki Fine Arts)、個展「Coyote」(2017 年/ Maki FineArts)、「群馬の美術 2017─地域社会における現代美術の居場所」(2017 年/群馬県立近代美術館)、「ミュージアムとの創造的対話 vol.1 – MONUMENT」(2017 年/鳥取県立博物館)、「あいちトリエンナーレ 2016 – 虹のキャラヴァンサライ」(2016 年)、個展「資本空間 -スリー・ディメンショナル・ロジカル・ピクチャーの彼岸 vol.7 白川昌生」(2016 年/galleryαM)、個展「ダダ、ダダ、ダ 地域に生きる想像☆の力」(2014 年/アーツ前橋)など。


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聞き手・構成 / 森啓輔氏(千葉市美術館学芸員)