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豊嶋康子「地質時代」

豊嶋康子 | Yasuko TOYOSHIMA
新太古代
2025年
自然塗料、木材、リンシードオイル
45 x 91 x 4 cm
豊嶋康子 | Yasuko TOYOSHIMA
ヘリウム
2025年
自然塗料、木材
60 x 45 x 7.5 cm(variable)
豊嶋康子 | Yasuko TOYOSHIMA
ティベリウス
2025年
自然塗料、木材
219.5 x 91 x 5.5 cm(variable)
豊嶋康子 | Yasuko TOYOSHIMA
原太古代
2025年
自然塗料、木材
91 x 91 x 4 cm
豊嶋康子 | Yasuko TOYOSHIMA
リィアキアン
2025年
自然塗料、木材
75 x 60 x 4 cm
豊嶋康子 | Yasuko TOYOSHIMA
土星
2024年
自然塗料、木材
22.9 x 11.1 x 5.2 cm

「物」と発生――豊嶋康子の〈地質時代〉について

勝俣涼(美術批評)

「地質時代」とは、地層が示す岩石や化石の分布を基に、地史学的な事象の変遷を区分する一連の標識である。豊嶋は本展の軸となる新たなシリーズ〈地質時代〉の手がかりとして、この概念を参照している。〈地質時代〉は先行する〈四角形〉シリーズの展開と位置づけられているが、両者の成り立ちに共通する合板は複層的な構造をもつ製材であり、累積する地層と比喩的に結びつくかもしれない。だが他方で、大地を掘削するように彫りを施す〈四角形〉とは異なり、〈地質時代〉ではパネル前面で複数の切片がパズルのように隣接している。そのために、地層のように累積する厚みよりもむしろ、絵画的な支持体の表面こそが強調される。
 それでもなお、これらが「地質時代」に紐づけられるのは、それが大地の物質的・空間的な組成にとどまらず、地球の活動の時間的な過程を指し示す概念でもあるからだ。地質時代の一覧作成とは、新旧の関係を記述可能にするための「名づけ」の作業である。それは言語的な標識(記号)を用いて、ほかならぬその言語を獲得した人類の登場以前までも含めた地球の時間を分割し、特定可能な枠組みを与えることで私たちの認識を支援するシステムとも言える。端的に表現するなら、「物」に「言葉」を与える手続きである。
 〈地質時代〉において豊嶋は、こうした年表作成の方法を、シリーズに属する個々の作品をラベリングし、管理を容易にするために応用している。台風の呼称を参照した〈地動説〉など、既存の系統的な標識を個別の作品タイトルとして割り当てる所作そのものは、これまでも試みられてきた。その一方で、すでに触れたように、〈地質時代〉は絵画的な表面のアレンジメントを際立たせている。そこには、ハード・エッジな幾何形態や、ドリップされた絵具の跡にも見える木目、引っ掻き傷のような肌理、あるいはそれらを生かすように浸透する色彩の皮膜がある。
 こうした諸々の質感はしばしば、絵画をフェティッシュな欲望の対象として現前させる。場合によっては、作品が生産され流通する文脈や体制(システム)は副次的なものとされ、「物」の直接的な享受に基づく良い/悪いという判断が主要な鑑賞様式となる。豊嶋の制作物にも、ある種の感覚的な「味わい」がある。しかしそれらの「物」が、「言葉」やシステムを逃れるものではないこともまた見た通りだ。言ってみれば〈地質時代〉は、作品の生産――あるいは豊嶋特有の語彙を用いるなら、「発生」――が、管理や流通に寄与する記号付与と密接する事情を隠さない。絵画を学んだ後、私たちを取り巻く社会制度に独自のコンセプチュアルなアプローチを仕掛けてもきた作家の来歴が、〈地質時代〉の成り立ちに批評的な緊張をもたらしている。


Abstractions – ある地点より –
豊嶋康子 | 佐藤克久 | 末永史尚 | 益永梢子

豊嶋康子 | Yasuko TOYOSHIMA
地動説_2020 カーヌン
2020年
木材、自然塗料、ステンレスボルト・ナット、平ワッシャー
17.5 x 17.5 x 4.9 cm

豊嶋康子 | Yasuko TOYOSHIMA
日常社会の制度や仕組みを批評的に捉え、人間の思考の「型」を見出すことをテーマとして、作品を発表している。

1967年埼玉生まれ。1993年東京芸術大学大学院美術研究科油画専攻修士課程修了。近年の主な展示として、個展「発生法─天地左右の裏表」(2023-24 年 / 東京都現代美術館)、「Group Show – 豊嶋康子 | 荻野僚介 | 伊藤誠」(2023-24 年 / Maki Fine Arts)、個展「収納装置」(2021年 / M 画廊)、個展「交流_2021」(2021年 / ガレリア フィナルテ)、「Public Device -彫刻の象徴性と恒久性」(2020年 / 東京藝術大学大学美術館)など。

佐藤克久 | Katsuhisa SATO
つらつら
2019年
キャンバスに油彩
65.2 x 53 cm

佐藤克久 | Katsuhisa SATO
絵画という制度・形式を題材として、ユーモアを交えながら、色彩と形態の関係性を探求している。

1973年 広島生まれ。1999年愛知県立芸術大学大学院美術研究科油画専攻修了。近年の主な展示として、個展「あけっぴろげ」(2023 年 / See Saw gallery+hibit)、個展「とりもなおさず」(2023年 / SHINBI GALLERY)、「Insight 28 “hang”」(2023年 / Yoshimi Arts)、「コレクション 小さきもの─宇宙/猫」(2023年 / 豊田市美術館)、「SHOUONJI ART PROJECT 28th 佐藤克久 うらおもて」(2021年 / 照恩寺)など。

末永史尚 | Fuminao SUENAGA
Search Results
2024年
パネル、綿布に顔料、アクリル絵具
42 x 69.5 cm

末永史尚 | Fuminao SUENAGA
日常見ているものや展示空間に関わるものからピックアップした視覚的トピックをもとに絵画・立体作品を制作している。

1974年山口生まれ。1999年東京造形大学造形学部美術学科美術 I 類卒業。近年の主な展覧会として、「うつす展」(2024年 / BOOK AND SONS)、「Textural Synthesis」(2024年 / 三越コンテンポラリー)、個展「軽い絵」(2024年 / Maki Fine Arts)、「へいは展」(2023年 / 代田橋納戸/ギャラリーDEN5) 、「Group Show – 白川昌生 | 末永史尚 | 城田圭介 | 加納俊輔 | ショーン・ミクカ」(2022年 / Maki Fine Arts)など。

益永梢子 | Shoko MASUNAGA
session4
2023年
木製パネル、キャンバス、アクリル絵の具、鉛筆
72.5 x 40 x 2 cm

益永梢子 | Shoko MASUNAGA
絵画を起点として、多様な手法により制作。周囲の環境・空間との関係性を重視する作品群は可変的で置換可能な性質を持つ。

1980年 大阪生まれ。2001年 成安造形短期大学造形芸術科卒業。近年の主な展示として、「MEMORIES」(2023年 / CADAN 有楽町)、「Ginza Curator’s Room #005 天使のとまり木」(2023年 / 思文閣銀座)、個展「その先の続き」(2023年/ Maki Fine Arts)、個展「editing」(2022年 / nidi gallery)、個展「replace」(2021年 / LOKO Gallery)など。



Abstractions – ある地点より – 豊嶋康子 | 佐藤克久 | 末永史尚 | 益永梢子
会期:2024年8月6日(火) – 8月25日(日)
会場:CADAN有楽町 / 東京都千代田区丸の内3-1-1国際ビル1階
営業時間:火−金 11時−19時 / 土、日、祝 11時−17時
休業日:8月13日(火)、8月19日(月)
オープニングレセプション:8月6日(火) 18:00-20:00
クロージングパーティー:8月25日(日) 15:00-17:00 *出展作家が参加いたします
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Group Show – 豊嶋康子 | 荻野僚介 | 伊藤誠

Maki Fine Artsでは12月16日(土)より2024年2月4日(日)まで、3名の作家によるグループショーを開催いたします。新作、および近作を展示いたします。是非ご覧ください。

豊嶋康子|Yasuko Toyoshima
1967年埼玉生まれ。東京芸術大学大学院 美術研究科油画専攻修士課程修了。日常社会の制度や仕組みを批評的に捉え、人間の思考の「型」を見出すことをテーマとして、作品を発表している。
近年の主な展示に、個展「発生法─天地左右の裏表」(2023-2024年 / 東京都現代美術館)、「Public Device -彫刻の象徴性と恒久性」(2020年 / 東京藝術大学大学美術館)、「話しているのは誰? 現代美術に潜む文学」(2019年 / 国立新美術館)など。東京都現代美術館に作品が収蔵されている。

荻野僚介 | Ryosuke Ogino
1970年埼玉生まれ。明治大学政治経済学部卒業、Bゼミスクーリングシステム修了。 色彩と形態の関係性を考察しながら、主に色面を用いた絵画作品の制作を行っている。
近年の主な展示に、「日本国憲法」(2023年/ 青山|目黒)、「heliotrope(ヘリオトロープ)」(2022年 / 照恩寺)、個展「造形言語」(2021年 / See Saw gallery+hibit)など。東京都現代美術館に作品が収蔵されている。

伊藤誠|Makoto Ito
1955年愛知生まれ。武蔵野美術大学大学院 造形研究科彫刻コース修了。様々な素材を用いた立体作品は、軽やかでユーモアがあり、同時代の彫刻の可能性を模索している。
近年の主な展示に、「DOMANI・明日展 2022–23」(2022-23年 / 国立新美術館)、「heliotrope(ヘリオトロープ)」(2022年 / 照恩寺)、「オムニスカルプチャーズ—彫刻となる場所」(2021年/ 武蔵野美術大学美術館)など。東京国立近代美術館、愛知県美術館などに作品が収蔵されている。

Artist

豊嶋康子・長田奈緒 – メディウムとディメンション Maze

2024年7月26日 – 9月2日
GASBON METABOLISM(山梨県北杜市明野町浅尾新田12)

豊嶋康子「前提としている領域とその領域外について」

豊嶋康子
地動説 _2020_1
2020年
木材、自然塗料、ステンレスボルト・ナット、平ワッシャー
18 x 15 x 4 cm

Maki Fine Artsは、豊嶋康子個展「前提としている領域とその領域外について」を10月16日(金)より開催致します。Maki Fine Artsでは約3年ぶりの個展となります。

豊嶋は1990年代、マークシート解答用紙の回答部分のみを残し黒塗りにした「マークシート」(1989-1990年)や、定規や分度器をオーブントースターで加熱し、捻じ曲げ変形させた「定規」(1996-99年)、鉛筆の中心部分のみを削り、芯を露出した「鉛筆」(1996-99年)などを発表。身近にあるものを用いて、ユーモアを付け加えながら、役割や意味を巧妙に逸脱させました。

また、社会経済のシステムに着目した、「ミニ投資」、「口座開設」、「振込み」(いずれも1996年-)では、株券、通帳、取引明細そのものを展示する手法により、行為・手続きを作品化することで、特定のルールや制度に内在する、個の存在を浮かび上がらせるものでした。

豊嶋の作品は常に、逆説的なものの見方に基づき、内的な部分とそれ以外の領域の交差により生じる、豊嶋自身の葛藤や、ある種の抵抗を体現しています。

2010年代に入ると、豊嶋の関心は現実的なプロセスよりも、自律的な形態によるパターン(図像)へとシフトしていきます。木製パネルの裏面に角材を幾何学的に組み込んだ「パネル」(2013年-)では、鑑賞者の意識を表面から裏側へずらし、合板上に複数の矩形を浮き彫りにした「四角形」(2017年-)では、支持体と図の相対的な関係性を題材としました。

本展では、新作「地動説_2020」シリーズを中心に展示いたします。円状の木材がダイヤル式に可動するのが特徴で、固定化した「かたち」のない、無数のパターンが存在する作品です。自転・公転の運動の仕組みを参照として、仕掛けが施された装置は、暗号的な意味合いを帯びて、鑑賞者の思考に迫ります。拡張し続ける豊嶋の最新作をご高覧ください。

地動説または天動説のような可動領域の原型をつくろうとしている。この領域は複数の層から構成され、その層を貫く軸があり、各層を恣意的に動かせる仕組みにしている。

豊嶋康子

豊嶋康子 | Yasuko Toyoshima

1967年埼玉生まれ。1993年東京芸術大学大学院美術研究科油画専攻修士課程修了。日常社会の制度や仕組みを批評的に捉え、人間の思考の「型」を見出すことをテーマとして、作品を発表している。近年の主な展覧会として、「9人の眼−9人のアーティストHikarie Contemporary Art Eye vol.13 小山登美夫監修」(2020年、渋谷ヒカリエ8/CUBE 1, 2, 3)、「話しているのは誰?現代美術に潜む文学」(2019年、国立新美術館)、「百年の編み手たち-流動する日本の近現代美術-」(2018年、東京都現代美術館)、「メルド彫刻の先の先」(2018年、Maki Fine Arts)、「第9回恵比寿映像祭 マルチプルな未来」(2017年/東京都写真美術館)、「MOTコレクション コレクション・オンゴーイング」(2016年/東京都現代美術館)、個展「資本空間 -スリー・ディメンショナル・ロジカル・ピクチャーの彼岸 vol.1 豊嶋康子」(2015年/gallery αM)など。

Artist

豊嶋康子 – 発生法─天地左右の裏表

2023年12月9日 – 2024年3月10日
東京都現代美術館

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Artfairs

Art Collaboration Kyoto

2022年11月18日 – 20日
国立京都国際会館イベントホール

Maki Fine Arts + Klaus von Nichtssagend Gallery
ブースナンバー : C16

展示アーティスト:
グレン・ボールドリッジ
ホーリー・クーリス
アレックス・ダッジ
ジェニファー・リー
豊嶋康子

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Artist

豊嶋康子 – PUBLIC DEVICE 彫刻の象徴性と恒久性

2020年12月11日 – 12月25日
東京藝術大学大学美術館 陳列室

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Artfairs

NADA New York

2018年3月8日 – 3月11日
Skylight Clarkson Sq
展示アーティスト:豊嶋康子

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b.jpg平成29年度文化庁優れた現代美術の海外発信促進事業(後期)