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鈴木星亜 「All You Need is Surface」

鈴木星亜
Surface 21_01
2021
キャンバスに油彩
130.3 x 194cm

Maki Fine Artsでは11月20日(土)より12月19日(日)まで、鈴木星亜 個展「All You Need is Surface」を開催いたします。Maki Fine Artsでは2回目の個展となる本展では、これまでの鈴木の代表的な題材である、水面を描いた新作を中心に発表いたします。
鈴木の描く風景の「ゆがみ」は、ユニークな制作プロセスに起因しています。実際の風景を取材する際、カメラにより記録するのではなく、文字によるメモ書きを残します。そのメモ書きの記憶を頼りにして、作品化しますが、キャンバスに構図の下書きをせずに、直接描くという手法によるものです。風景を二次元化する過程において、写真で記録する場合は、撮影時にトリミング(切り取り)されますが、鈴木の制作手法は、事後的にキャンバスの枠内にイメージを押し込め、圧縮するような描写で進めるため、その結果として、自由自在に変換された独自のパースペクティブが生み出されています。水面を白い網目のラインで表現した描写や、樹木や葉っぱの強調された輪郭が、画面に与えるイリュージョンの作用を後押ししています。近年、試みを続けている、画面に皺を作り、凹凸を用いて描く手法も、その実践の延長線上にあります。

All You Need is Surface

前回の個展のタイトルを決める時に出た「Surface」という言葉がとてもしっくりきた。
物の構造から離れて物体の「Surface」だけを見るときに、それは絵画になるんじゃないか。
私が見るものも「Surface」だろう。中身は見えないから想像するしかない。
誰かの考えも言葉や態度という「Surface」を通してしか分からない。
様々な考えが「Surface」という言葉に集約される感じだ。
そんなことを考えていたら、ビートルズの「All You Need is Love」がふと浮かんだ。小さい頃にアルバムを買って、気に入って聴いていたのだけれど、調べてみると、歌詞をどう解釈するか難しいらしい。僕らには正解は分からない。ジョン・レノンがどう考えていたのか想像するしかない。全ては「Surface」で、「Surface」こそ全てだ。

鈴木星亜

鈴木星亜 | Seia Suzuki
1986 年東京都生まれ。2012 年多摩美術大学大学院美術研究科博士前期(修士)課程絵画専攻油画研究領域修了。2012 年 VOCA 賞受賞。実際の風景を文章で書きとめ、それをもとに絵を描くという手法で制作し、ものを見て、描くという絵画のプロセスの中で何がおこっているのかを探求している。近年の主な展覧会として、個展「Surface 2014 – 2020 」(2020年 / Maki Fine Arts)グループ展「TOKYO☆VOCA」(2020年 / 第一生命ギャラリー)、個展「絵は私の身体を通して世界を見る」(2018 年 / ギャラリー16)、個展「project N 62 鈴木星亜」(2015 年 / Tokyo Opera City Art Gallery 4F corridor)、個展「水面」(2015 年 / 第一生命ギャラリー)など。

鈴木星亜「Surface 2014 – 2020」

鈴木星亜
水面 14_01
2014年
キャンバスに油彩
194.0 x 390.9cm

Maki Fine Artsでは6月6日(土)より、鈴木星亜 個展「Surface 2014 – 2020」を開催します。Maki Fine Artsでは初めての個展となります。是非ご高覧下さい。


「波紋と皺〜鈴木星亜の絵画〜」

上野の森美術館 学芸員 岡里 崇


 鈴木星亜は1986年東京生まれ。2008年より本格的に発表を始め、トーキョーワンダーウォール、シェル美術賞展などに出品したのち、VOCA展2012でVOCA賞を受賞している。本展には2013年から2019年までの作品が出展され、鈴木の作家としての足取りを辿ることができる。

 鈴木は当初、写真を基にして絵画を制作していた。画面から自らの記憶にないものを排除しようと試みたが、写真に引きずられてうまくいかなかったという。そこで2010年から、目に見える風景を文字でメモして、それに基づいて描く手法をとっている。

 これまで鈴木は水面を多く描いており、今回のメインとなる作品も《水面14_01》である。ここに描かれているのは、作品を最初に展示した第一生命日比谷本社前に広がる皇居のお堀である。画面上部の石垣と水面との際が極端なカーブで誇張され、また左下には木の幹が画面を斜めに横切っていて、その両者が緑に覆い尽くされそうな画面の中でアクセントとなっている。大きな割合を占める緑色の水面が印象的な作品だが、画家の関心はその波紋にあるようだ。彼の作品をいくつも見ると、波紋は時に蓮の葉や木の葉の緑と共鳴し合い、時に山の稜線と似通った描線となっている。

 今回の個展ではカンヴァスに皺が寄った作品がいくつか出品される。この皺と描かれた波紋を写真で見ると似通って見える。しかしその構造上の働きは全く異なっている。皺があると当然描きにくくなるが、引っかかりのないフラットな画面に描いていると支持体の存在が希薄に感じるというこの画家は、色の際を皺の凹凸に合わせたり、逆にあえて皺の凹凸に抗って筆を進めたりと、描く際の障害になる皺を積極的に利用している。

 鈴木は、滑らかな二次元の表面にはない凹凸という抵抗感を導入して、絵画の素材感や物質感を確かめる。同時に三次元の世界を二次元の平面上に無理やり押し込めている不自然な絵画世界に、三次元性を取り戻そうと試みている。

鈴木星亜 / Seia Suzuki
1986 年東京都生まれ。2012 年多摩美術大学大学院美術研究科博士前期(修士)課程絵画専攻油画研究領域修了。2012 年 VOCA 賞受賞。実際の風景を文章で書きとめ、それをもとに絵を描くという手法で制作し、ものを見て、描くという絵画のプロセスの中で何がおこっているのかを探求している。近年の主な展覧会として、グループ展「TOKYO☆VOCA」(2020年 / 第一生命ギャラリー)、個展「絵は私の身体を通して世界を見る」(2018 年 / ギャラリー16)、個展「project N 62 鈴木星亜」(2015 年 / Tokyo Opera City Art Gallery 4F corridor)、個展「水面」(2015 年 / 第一生命ギャラリー)など。