Exhibition
豊嶋康子「地質時代」
2025年1月22日(水)- 3月9日(日)
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新太古代
2025年
自然塗料、木材、リンシードオイル
45 x 91 x 4 cm
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ヘリウム
2025年
自然塗料、木材
60 x 45 x 7.5 cm(variable)
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ティベリウス
2025年
自然塗料、木材
219.5 x 91 x 5.5 cm(variable)
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原太古代
2025年
自然塗料、木材
91 x 91 x 4 cm
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リィアキアン
2025年
自然塗料、木材
75 x 60 x 4 cm
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土星
2024年
自然塗料、木材
22.9 x 11.1 x 5.2 cm
「物」と発生――豊嶋康子の〈地質時代〉について
勝俣涼(美術批評)
「地質時代」とは、地層が示す岩石や化石の分布を基に、地史学的な事象の変遷を区分する一連の標識である。豊嶋は本展の軸となる新たなシリーズ〈地質時代〉の手がかりとして、この概念を参照している。〈地質時代〉は先行する〈四角形〉シリーズの展開と位置づけられているが、両者の成り立ちに共通する合板は複層的な構造をもつ製材であり、累積する地層と比喩的に結びつくかもしれない。だが他方で、大地を掘削するように彫りを施す〈四角形〉とは異なり、〈地質時代〉ではパネル前面で複数の切片がパズルのように隣接している。そのために、地層のように累積する厚みよりもむしろ、絵画的な支持体の表面こそが強調される。
それでもなお、これらが「地質時代」に紐づけられるのは、それが大地の物質的・空間的な組成にとどまらず、地球の活動の時間的な過程を指し示す概念でもあるからだ。地質時代の一覧作成とは、新旧の関係を記述可能にするための「名づけ」の作業である。それは言語的な標識(記号)を用いて、ほかならぬその言語を獲得した人類の登場以前までも含めた地球の時間を分割し、特定可能な枠組みを与えることで私たちの認識を支援するシステムとも言える。端的に表現するなら、「物」に「言葉」を与える手続きである。
〈地質時代〉において豊嶋は、こうした年表作成の方法を、シリーズに属する個々の作品をラベリングし、管理を容易にするために応用している。台風の呼称を参照した〈地動説〉など、既存の系統的な標識を個別の作品タイトルとして割り当てる所作そのものは、これまでも試みられてきた。その一方で、すでに触れたように、〈地質時代〉は絵画的な表面のアレンジメントを際立たせている。そこには、ハード・エッジな幾何形態や、ドリップされた絵具の跡にも見える木目、引っ掻き傷のような肌理、あるいはそれらを生かすように浸透する色彩の皮膜がある。
こうした諸々の質感はしばしば、絵画をフェティッシュな欲望の対象として現前させる。場合によっては、作品が生産され流通する文脈や体制(システム)は副次的なものとされ、「物」の直接的な享受に基づく良い/悪いという判断が主要な鑑賞様式となる。豊嶋の制作物にも、ある種の感覚的な「味わい」がある。しかしそれらの「物」が、「言葉」やシステムを逃れるものではないこともまた見た通りだ。言ってみれば〈地質時代〉は、作品の生産――あるいは豊嶋特有の語彙を用いるなら、「発生」――が、管理や流通に寄与する記号付与と密接する事情を隠さない。絵画を学んだ後、私たちを取り巻く社会制度に独自のコンセプチュアルなアプローチを仕掛けてもきた作家の来歴が、〈地質時代〉の成り立ちに批評的な緊張をもたらしている。
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