Exhibition

アレックス・ダッジ THE CENTER OF ELEGANCE

2025年11月22日(土)- 12月21日(日)
オープニングレセプション:11月22日(土) 17:00 - 19:00

Maki Fine Artsでは、アレックス・ダッジの4度目となる個展「The Center of Elegance」を開催いたします。ダッジ自身にとって10年以上ぶりとなる立体作品とテキスタイルの制作に回帰した展覧会となります。今回の新作は、これまでのダッジの作品から大きく展開されています。インスタレーション作品と並び、ステンシルを用いたペインティングは、文化の混在、戦後の記憶、そして異文化交流に内在する矛盾を探求します。

展覧会の概要
立体作品を中心として、クロムメッキの折りたたみ椅子6脚が円状に並べられ、互いに対話するように配置されています。ゴールドと白色のサテンをまとい、「Milton, Paradise Lost」の文字が刺繍され、星条旗があしわられたスカジャンを着た等身大の人物像が鎮座しています。その人物像(頭をわずかに垂れ、金色のフリンジ付トラッカーキャップとシルクのマスクで顔の一部が隠れている)の瞑想的な姿勢は、存在と不在、追悼と沈思の両方を想起させます。周囲に並べられた椅子には、さらに4着のスカジャンがそれらの椅子の背面にかけられており、「Milky Way」、「A Dream」、「Morimoto」、「The Horror」の文字が刺繍されています。1脚の椅子は空席のまま残されています。

スカジャン(スーベニアジャケット)は、戦後の占領期におけるアメリカ兵と日本の刺繍職人との出会いから生まれました。当初は記念品として作られた、ハイブリッドな衣服は、セレブレーションと葛藤、親密さと疎外感の両面を体現しています。家族やコミュニティとのつながりを深めながら、日本を拠点とするアメリカ人アーティスト、ダッジにとって、スカジャンは両国間に今も残る語られざる遺産を問い直すための重要なモチーフとなっています。

横振り刺繍(フリーハンド刺繍)の職人たちとのコラボレーションを通じ、ダッジは伝統的なモチーフを模倣するのではなく、刺繍という技法そのものの可能性に基づく新たな視覚言語を開発しました。こうして生まれたジャケットは、歴史的な形式を継承しつつも、現代における独自のアーティファクトとして存在します。矛盾を内包しながらも、共同制作を通して生まれる対話と創造の可能性を提示するものです。

展示はさらに複数の作品群に展開されています。人物像の後ろには、スカジャンの型紙から抽出した形をもとに構成されたファブリック・コラージュの三連作が展示されています。二層のシアーリネン(薄く、透明感のあるリネン生地)の間に切り抜かれた布片を重ね合わせ、幾何学的で対称的な構成を生み出しています。さらに、その上から透明アクリルメディウムによる筆致を加えることで、生地の透過性が部分的に変化し、光の層や奥行きを感じさせる効果を生み出しています。中央のパネルには展覧会タイトルである「The Center of Elegance」の文字が布で縫い付けられています。別の壁面には、スカジャンとテキスタイルのパターンを、ステンシルを用いて精密に描いた、3点の大型のペインティングが展示されます。その反対側にはグローブのパターンを題材としたファブリック・コラージュが並び、「Star Dust」「Warm Body」「À La Mode」の文字が刻まれています。さらに、脱ぎ捨てられたようなの白いドレスシャツを描いたペインティングも加わり、衣服を記憶と意味の媒介として考察する展覧会のテーマを深めています。

アーティスト・ステートメント
「これらのジャケットは、複製や模倣ではありません。スカジャンという形式を踏襲しながらも、私自身の経験に根ざした現代のアーティファクトです。これらのジャケットを通して、矛盾、つまり対立から生まれる美しさ、文化の衝突の中にある親密さ、そして模倣ではなく共同制作を通して生まれる対話の可能性のための空間を創出することを目指しています。」
― アレックス・ダッジ

展覧会タイトルについて
「The Center of Elegance」は、憧憬とアイロニーの両方を示唆しています。文化的なアイデンティティや複雑な権力の美学に内在する矛盾を認めるタイトルになっています。この展覧会はアメリカ社会が再び分断と緊張を深める時代において、協力、配慮、そして困難な歴史への認識に根ざした関わりのモデルを提示しています。

本展覧会の制作は、ポロック=クラズナー財団の助成によって実現しました。
特別協力:SHISHUMANIA

アーティスト略歴
アレックス・ダッジ(1977年生まれ)は、ニューヨークと東京を拠点に活動しています。その作品はニューヨーク近代美術館、ホイットニー美術館、メトロポリタン美術館などに収蔵されています。Maki Fine Artsでの個展は4回目となります。近年は日本においてスタジオの拡充を進めており、日本の文化や伝統工芸への深い関心を作品に反映させています。