Exhibition
アレックス・ダッジ 「LAUNDRY DAY : IT ALL COMES OUT IN THE WASH」
2021年9月25日 - 11月7日
Maki Fine Artsでは9月25日(土)より11月7日(日)まで、アレックス・ダッジ 個展「LAUNDRY DAY : IT ALL COMES OUT IN THE WASH」を開催いたします。日本では約 2 年半ぶり、2 回目の個展となります。本展では、これまでの作品で題材にしてきたニューヨークタイムズ紙などの新聞や印刷物のイメージと、テキスタイルやパターン、衣服や布のイメージが組み合わされた新作ペインティングを発表いたします。是非ご高覧下さい。
二次元と三次元のあいだ
出原 均(兵庫県立美術館 学芸員)
前回のマキファインアーツでの個展「情報のトラウマ」の出品作は、ぐしゃっとつぶされたり、梱包に使われたりした新聞紙や布地が主モチーフだった。いかにも視覚的イリュージョンを刺激する形である。その歪みと基本の形との差から私たちの脳が三次元性をはじき出すわけだ。キャンバスの上に背景なしで、それだけが描かれたモチーフは、しかも、いくらか厚みを感じさせる。油彩絵具は塗り重ねられたり、厚く塗られたりしているので(その上に文字や模様がステンシルで転写される)、新聞や布の三次元イリュージョンが多少肉付けされたように見える。しかし、よく視るなら、絵具の盛り上げの中には、新聞の見かけの凹凸などには沿わないものや、その土台であるキャンバスの平面性を喚起させるものがあり、けっしてイリュージョンの増幅に還元されるわけでなく、一様ではない。それゆえ、三次元(厚み)と二次元(三次元イリュージョン)、両方の知覚の間で私たちの眼差しはさまようことになる。二つの知覚の差異という視覚芸術の普遍的な問題が、この小世界で展開されているのだ。緻密な計算と柔軟な付置によって編み上げられた絵画というべきだろう。
アレックス・ダッジは、コンピュータ上で三次元シミュレーションしたイメージを用いる。また、レーザーカットしたステンシルは、日本の型染めなどがヒントになったという。最先端テクノロジーと伝統の技、西と東、アートとデザイン、絵画と版画。これらは対照的、対比的な二項と見なされる(あるいは、戦略的に提示することもできる)が、この作家の手にかかると、上述したように、意図に合わせて、実にしなやかに制作の中に組み込まれる。型染めなど、説明を受けるまで全く意識しないほど彼の手法である。こうして、高い技術(テクノロジー)に裏打ちされ、知的に計算された先で、あの、見ることの驚きが生み出されるのである。
彼が近年描いているモチーフは日常の消費物のようだ。目の前を過ぎていくささやかな存在に、今日性と意味を見出しているのだろうが、そこに詩に通じるものも感じられる。詩人は現実とは独立した文字の世界を構築する。ダッジも、それと同様のことを絵筆で行っているのだ。
アレックス・ダッジ | Alex Dodge
1977 年アメリカ合衆国コロラド州デンバー生まれ、現在ブルックリン(ニューヨーク)と東京を拠点に活動している。近年の主な展示に、個展(2020年 / Klaus von Nichtssagend)、個展「情報のトラウマ」(2019 年 / Maki Fine Arts)、「Programmed: Rules,Codes, and Choreographies in Art, 1965-2018」(2018-19 年 / ホイットニー美術館)、個展「Whisper in My Ear and Tell Me Softly」(2018 年 / Klaus von Nichtssagend Gallery)など。ニューヨーク近代美術館、ホイットニー美術館、メトロポリタン美術館、ボストン美術館などに作品が収蔵されている。